大阪城天守閣 特別展「“シンボル”が彩る戦国の世」
外国人入国者の制限が解除され、平日の大阪城は外国人観光客の皆さんで賑わっていました。やっと大阪城らしい雰囲気が戻ってきましたね。さて、今回は大阪城天守閣3・4階展示室で11月23日(水曜日・祝日)まで開催されている特別展「“シンボル”が彩る戦国の世」を取材していきました。大阪城公園の紅葉も進んできているので、散策と合わせて是非お立ち寄りください!
大阪城天守閣では2019年ぶりの開催となった「特別展」。今回の展示を担当されました学芸員の岡嶋大峰(おかじま ひろたか)さんを探偵旅団のにっしゃんがインタビューしてきました。
■今とは違う!? 発想が多様な戦国の武将
探偵旅団:今回は2019年以来の「特別展」ということで展示内容を教えてさい。
岡嶋さん:花押(かおう)、印章、家紋、旗指物(はたさしもの)といった戦国時代に用いられていた「シンボル」に焦点を当てた展示内容です。様々なシンボルが国旗やエンブレムなど文章に頼らずに何かを説明する存在として現代社会でも溢れかえっています。そういったシンボルが戦国時代ではどのように使われてきたのかを古文書、工芸品、武具などを通じて紹介しています。
武将花押鑑(大阪城天守閣蔵)
革包伊予札菱綴二枚胴具足(伝 仙石秀久所用/大阪城天守閣蔵)
探偵旅団:多種多様なシンボルマークとその使われ方という感じでしょうか。
先程のご説明に出てきました「花押」ってどんなものですか?
岡嶋さん:今でいう署名(サイン)に近いです。本来は署名をより図案化したもので、戦国時代はオリジナリティがあって興味深いものが多いです。私が「花押」にもともと興味があったこともあり、今回の展示を着想しました。
探偵旅団:花押を見てみると、芸能人のサインみたいに一見何が書かれているか分からない図というか線画というか。
そういえば…私も坂本龍馬の花押Tシャツを持っています(笑)
岡嶋さん:花押は現代の一般の方には馴染みはないと思いますが、実は今でも閣僚が使っているんですよ。
探偵旅団:そうなんですか、今でも! そう思うとなんだか興味が増してきました。
岡嶋さん:花押とは逆に、一般的にまだ残っているといえば「家紋」じゃないでしょうか。
探偵旅団:私の家では祖母祖父のお墓に刻まれていますし、そういったご家庭は多いと思います。
岡嶋さん:家紋と言えば着物の胸元などに付いているのをよく見ますよね。
探偵旅団:紋付き袴といいますもんね。
岡嶋さん:平安時代にはすでに家紋の原型になるものがありましたが、その時代の肖像画などを見てみると着物に家紋はあまり付いていないようです。甲冑も源平時代といった戦国時代以前には、家紋と見なせるものがはっきりと付いているのは少数派と思われます。だんだんと付くようになっていくのは室町時代からです。
探偵旅団:武士の甲冑といえばどこかに家紋が入っていて、一族の誇りを大事に戦っていたというイメージが強いですが…。
岡嶋さん:そのイメージが定着するうえで、戦国時代における展開が画期的だったと思っています。この時代から家紋がいろんなところに使われ始め、用途が多様に展開してきます。着物についても同様です。
探偵旅団:紋付き袴は武士の発想だったわけですね!
岡嶋さん:着物のように今と共通しているものもありますが、当時の武士たちは今とは少し違う感覚でシンボルを扱っていました。
探偵旅団:違った感覚…
岡嶋さん:今では家紋は決まっていて、それを誰かに譲るってありませんよね。
探偵旅団:え!? あり得ません(笑)
岡嶋さん:江戸時代になってから、この家はこの家紋で本家はコレ、分家は本家のここをアレンジ…みたいに家紋のデザインは細かく、厳格に決められていきます。現代の家紋に対する感覚は、江戸時代に近いのかもしれません。ですが戦国時代、家紋は人から人へ渡るものでもあったんです。
探偵旅団:今とは違った感覚で使われていたというわけですね。
岡嶋さん:例えば、伊達政宗が細川忠興からもらったと伝わる家紋がありまして、それは展示しています。
大きな〇の周りに小さな〇が8つ取り囲んでいるものです。
梨子地御紋散蒔絵目録箱(愛媛・宇和島伊達文化保存会蔵)
探偵旅団:「コレいいデザインなんでちょうだい?」みたいな(笑)
岡嶋さん:それに近いと思います。
探偵旅団:かる~い感覚(笑)
岡嶋さん:そうなんです。秀吉なんかは菊・桐といった皇室でも使われる格の高いものをいろいろなところに惜しげもなく使っています。陣羽織の裏地に使っているものがありますので、デザイン的に「文様」や「柄」としても使っていたようです。現在のように家を表す格のあるシンボルとは言い難い使い方の感覚があると思います。
大坂城天守の壁に描かれた桐 (大坂城図屏風/大阪城天守閣蔵)
岡嶋さん:戦国時代の武士たちが皆同じ感覚だったとは思いませんが、多くの人が今とは違う感覚で家紋をとらえていたのではないでしょうか。
Contents
■コレクターズアイテム! 江戸時代の娯楽としても
探偵旅団:今回の展示のポスターに使われている旗印の屏風って面白いデザインですね。
諸将旌旗図屏風(大阪城天守閣蔵)
岡嶋さん:この屏風は江戸時代に作られたものですが、当時の人達が戦国時代の有名人のシンボルを娯楽にしていたということがうかがえる資料です。
探偵旅団:娯楽としてですか?
岡嶋さん:これは名のある武将が使っていた旗印や馬印を描いた屏風で、室内に飾って鑑賞する目的で作られたと考えられています。この例以外にも歴史上の有名人が使っていた花押の一覧が江戸時代には一般向けに出版されていたんです。
大成武鑑(大阪城天守閣蔵)
大名屋敷の出入り業者などが実用的に使用していたケースも
探偵旅団:シンボルを趣味で楽しむとは親近感が湧きますね。
岡嶋さん:今でいうコレクターのように有名人の花押の切り抜きを集めたり、見て楽しんだりという文化人もいました。当時、歴史上の人物のシンボルを楽しむという文化が生まれていたんです。
探偵旅団:トレーディングカードみたいな感じでしょうか?
岡嶋さん:コレクションの内容は違っても、コレクターは江戸時代にも存在していたんですね。
■見逃し注意! 超有名!や、カワイイ!も
探偵旅団:今回の展示で特に「見逃し注意!」の資料を教えてください。
岡嶋さん:有名な織田信長の「天下布武」の朱印ですね。
探偵旅団:あの超有名な!
織田信長朱印禁制 天正8年3月日付 摂州湯山宛(大阪城天守閣蔵)
岡嶋さん:「天下に武を布(し)く」という印文ですが、「武力で全国を平定する」という意味とされていました。しばらく前にそれを覆す説が出てきて、しかしやはり旧来説のとおりでいいのではという主張もあるようです。
探偵旅団:「天下布武」の意味って歴史学会の中で今でも論争の続いているなんて新鮮ですし、ロマン感じますね。
岡嶋さん:信長のこの印章は少し特徴のある形をしているんですが、実はこれとそっくりなものを使っている人物がいるんです。
探偵旅団:偽物ってことですか?
岡嶋さん:そうではなくて、信長の息子である織田信雄(のぶかつ)が使っていた本物なんですが、あえて同じようなデザインにしていると思われるんです。
探偵旅団:個人を特定するものなのに、似ていては困るんじゃないですか?
岡嶋さん:本来はそうなんですが、信雄は信長の正当な後継者であることを印象付けるために、あえて同じようなデザインの印象を作ったと考えられています。
探偵旅団:なるほど! 正当な後継者というアピールに使ったわけですか。
岡嶋さん:この例以外にも、豊臣秀頼も信雄と同じことをしています。
探偵旅団:秀頼も!
岡嶋さん:今回の展示ではそれが分かるように対比の形で展示していますので、是非ご覧ください。
左:織田信長の印象
右:織田信雄の印象(織田信雄黒印状 (天正12年)4月10日付 吉村又吉郎宛/大阪城天守閣蔵)
探偵旅団:他に変わった展示物なんかはありますか?
岡嶋さん:来館者の方に人気を博しているものがありますね。
探偵旅団:カッコいい甲冑とかですか!?
探偵旅団:わー! カワイイですね(笑)
岡嶋さん:今回は大阪城天守閣の収蔵品以外にも外部からお借りしたものがあるんですが、これは愛媛県の宇和島から借りてきている印章です。他にたくさん展示しているのはあくまで古文書に押された「印影」ですが、これはハンコそのものです。
探偵旅団:確かに印章そのものってあまり見ませんので面白いですね。
宇和島藩祖伊達秀宗(義山)印章(愛媛・宇和島伊達文化保存会蔵)
岡嶋さん:獅子があしらわれた印章なんですが、「可愛い」と評判なんです。
探偵旅団:これも見逃し注意ですね!
■岡嶋先生お薦め! 花押に見るユーモア
探偵旅団:見逃し注意資料を2点ご紹介いただきましたが、岡嶋先生がこの展示の担当者として準備をされてきた中で個人的に「見て欲しい、興味深い」と思った資料があれば教えてください。
岡嶋さん:そうですね。花押でも色んな形があるんですが、伊達政宗の花押は個人的に面白いと思います。
探偵旅団:超有名人物の花押ですね。面白い形…なんだろう?
岡嶋さん:花押の原型は署名で使う草書体の名前を崩したものなんですが、更に手を加えた花押も多くあります。例えば、文字一部を組み合わせて作る方法です。源頼朝の花押ですが「頼」の左側の「束」と「朝」の右側の「月」を組み合わせて「束月」を崩して作られています。
探偵旅団:適当に崩しているわけでなく、自己流の法則を作ってちゃんと設計されている花押もあるんですね。
岡嶋さん:そういった法則の分かる花押とはまた違ったアレンジを加えているのが伊達政宗の花押です。
伊達政宗の花押(戦国武将花押貼交屏風/大阪城天守閣蔵)
探偵旅団:なんか丸っこくて、アイドルのサインみたいです(笑)
岡嶋さん:文字を崩したというより何かの絵に見えませんか?
探偵旅団:あー、えー、アヒルみたい(笑)
岡嶋さん:アヒルではないですが…、おっしゃる通り鳥の絵だと言われていて、「鶺鴒(せきれい)の花押」と呼ばれています。ちなみに上のほうは頭と首のように見えるかもしれませんが、「政宗」という署名です。
セキレイ(参考写真)
探偵旅団:確かに似ています。鷹や鷲みたいな勇猛な鳥ではなく、かわいい小鳥っていうのは意外です。伊達政宗のユーモアを感じますね。
でも、重要な書類の署名にも使うので軽々しいものではないのですよね?
岡嶋さん:そうなんです。印章よりも花押の方が正式なものとされていました。
それに花押を書く際にかなりの集中力が必要だったというエピソードがあります。
探偵旅団:一球入魂みたいな? それも今とは違った感覚ですね。
岡嶋さん:ある古文書には、「体調不良で花押が書けないから印章にしています」というのをわざわざ追伸で記した資料がいくつか残っているんです。
探偵旅団:花押じゃなくてハンコでごめんねってことですか!?
岡嶋さん:こういった資料でも花押が入っているものがより正式なものだったということが分かります。
展示担当の岡嶋大峰さんと「諸将旌旗図屏風」
探偵旅団:最後に、これから展示を観に来られる方にメッセージをお願いします。
岡嶋さん:そのシオンボルにはどんな意味があるか、何を表しているのかを知っていただくのも嬉しいですが、色んな種類のシンボルが多様なところに使われているというのを気楽に見て回って当時と今の感覚の違いを感じるというのもいいと思います。江戸時代のコレクターになったつもりで。
探偵旅団:現在のコレクターさん達に必見ですね! ありがとうございます。
■にっしゃんからのメッセージ
この記事で紹介していない興味深い資料がまだたくさんありますので、特別展「“シンボル”が彩る戦国の世」へ是非お越しください。
図録だけでも欲しいという方はオンラインショップでご購入いただけますよ!
特別展「“シンボル”が彩る戦国の世」図録
https://osakacastleonlineshop.com/item-detail/1259749
■展示概要
1.名称:特別展「“シンボル”が彩る戦国の世」
2.会期:開催中 11月23日(水曜日・祝日)まで
3.時間:9時から17時まで (注)入館は閉館の30分前まで
4.主催:大阪城天守閣 大阪市中央区大阪城1番1号
ホームページ:https://www.osakacastle.net/
5.会場:大阪城天守閣3・4階展示室
6.入館料:大人600円 中学生以下、大阪市在住65歳以上の方(要証明)、
障がい者手帳等ご持参の方は無料
※この特別展は大阪城天守閣の通常入館料でご覧いただけます。
7.出品点数:80点
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