大阪城天守閣3・4階展示室でゴールデンウイーク中を含めた5月8日(日)まで開催されているテーマ展「武将たちの風貌(ふうぼう)」を取材してきました。連休を大阪で過ごす方は大阪城天守閣へ行かれる際の参考になさってください。

今回のテーマ展を担当されました学芸員で研究副主幹の跡部 信(あとべ まこと)先生を探偵旅団のにっしゃんがインタビューしてきました。

 

■着想はブロマイド!?

にし:跡部先生、よろしくお願いします。
跡部:よろしくお願いします。
にし:早速ですが、今回のテーマ展ですが、どのような経緯で着想されましたか。
跡部:まずは、この図録を見てください。


本展覧会の図録・A5サイズ

にし:いつもの半分のサイズでしょうか、コンパクトです。
   内容は武将の肖像画とその人の解説が1人1ページで書かれているんですね。
跡部:そうなんですよ。
   こういう図録があればいいなという発想で進めたのが今回の展示です。
   ブロマイドみたいな図録を作りたかったんです。
にし:ブロマイドって(笑) なんか世代を感じる表現ですね。。。
   ありがとうございます(笑)
跡部:企画を思いついて大阪城天守閣所蔵の資料を調べてみると結構「顔」が集まるぞというのがわかったんですよ。そこにプロフィールみたいな解説(略伝)を入れて、プロ野球チップスカードやビックリマンシールを集めたような図録にしたら面白そうだなって思ったんです。
にし:ビックリマンシールは私も集めてました! 世代を感じますね。
   若い世代には分かるまい…(笑)
   こういう展示って今までなかったんですか?
跡部:肖像画の展覧会は今までもあったんです。でも、絵巻物や屏風絵からも人物をひっぱってくるものは初めてです。
にし:絵巻物や屏風絵といえば、何かの出来事の場面説明の絵ですから、主人公でない人物を取り上げるってなかったんですね。
   なんかすごく面白そうな感じがします。
跡部:抜き出してみたら結構面白い。
   図録サイズもこだわりまして、私は大阪城天守閣に29年間おりますが初めて作るサイズです。
にし:これは新しい試みなんですね!
   確かに、図録というより本の様なこのサイズ感は今回の展示にピッタリだと思います。

 

■無名な人物が特定できるのは研究成果から

にし:肖像画ならば一人で描かれるので人物を特定しやすいと思うのですが、合戦の屏風絵からだと名前が書いていないのでそれが誰なのかってわかるんですか?
跡部:人物名が書かれていないものに関しては、文献や類品の絵画史料を検討して判断しています。
にし:今までの研究成果で人物を特定していくわけですね。
跡部:例えば、「大坂夏の陣図屏風」には5071人の人物が描かれているとこれを作った福岡藩主黒田家では言い伝えているんですが、その中で21人だけが判明しているんです。それらは、旗指物その他から特定されています。
にし:真田幸村や徳川家康など名だたる武将が細かく描かれたあの屏風絵に5071人もの人物が描かれているんですか!?
   確かに肉眼では表情までは見えづらいほど細かい描写です。
跡部:「大坂夏の陣図屏風」は他と比べてもよく描かれていまして、パネルに引き延ばして見てみると人物の個性まで伝わってくるので、絵師の技量のすごさが分かります。
にし:すごいですね。
   肖像画といえば、足利尊氏、源頼朝など教科書で私たちが学んだ人物の肖像画が実は違う人物だったというニュースをたびたび耳にしますが、あれってどういうことなんですか?
跡部:武田信玄も違いますよね(笑)。
   描きこまれている家紋やら何やらを見直したら、人物が変わってしまったのです。
にし:歴史の資料が新しく発見されて情報の密度が高まっていくことで、人物が特定しやすくなるということなんですね。
跡部:例えば源頼朝の肖像画は、所蔵している神護寺に「頼朝画像を安置している」という文書があって、お寺でもあれが頼朝と伝えていたので。長らく頼朝とされていたんです。しかし足利尊氏の弟直義が自分と兄尊氏の肖像画を神護寺に奉納したと記した文書が注目され、直義ではないかと言われるようになりました。
にし:じゃ、豊臣秀吉もその可能性があるんですか?
跡部:秀吉の肖像画は神様として祀るために亡くなってすぐに作られたものが多く残っています。
にし:ということは、結構精度が高いんじゃないですか?
   実際に会ったことのある絵師が絵描いているものもあるでしょうから。
跡部:そのはずなんですが、それでも顔が違うものが何種類かあるんです。
   並べて展示していますので、見比べてみてください。

秀吉の肖像画が5点並んでいて違いを見比べられる

にし:ほんとだ! 結構違うというか、全く違う顔じゃないですか(笑)

 

■展示方法にも工夫とアイデア そこに意外な苦労も

にし:図録の構成はプロ野球チップスカード的っていうのはよくわかったんですが、展示では何か工夫はされているんでしょうか。
跡部:図録を作るという発想から入っているので、実物の展示を考えるのは難しかったですね。関係性で区切って4つの章にまとめました。
にし:一つの屏風に何人も描かれていると、章ごとに分けるというのは難しかったでしょうね。
跡部:パネルを使ってその難題は解決しました。
   屏風絵や絵巻物で小さく描かれているものは分かりやすく拡大してパネルにしているので解説とともにご覧ください。

拡大された人物のパネルと解説文をセットにして展示されている

にし:拡大パネルは見やすくて分かりやすい展示だと思います。
ほかに何か工夫はありますか。
跡部:絵なので展示が平面ばかりになると飽きてしまうので、関連した鎧や武具、エピソードと関連する古文書なども合わせて展示しています。

立体的な資料も展示され目を惹く

跡部:家康が信長に送った書状などがありますが、関連するものは図録に収録していませんので、展示のみでご覧いただけます。
にし:現場に足を運ばないと見ることができないんですね。
跡部:それと工夫といえば、隣同士で関係する二人を並べて展示しているものがあります。
にし:どんなものですか。
跡部:例えば石田三成と島左近です。

隣同士に展示されている石田三成(右)と島左近(左)

跡部:あとは主君と、クビにされたその元家臣とか、恨んだ人と恨まれていた人とかですね(笑)
にし:関連する人物を資料で見比べられるように展示しているんですね。
   個性的な自分が多いと思うので、そんなエピソードが後世に残っているのも面白さと一つですね。
跡部:ケンカする主君と家臣ってめずらしくないんですよ。
にし:下剋上があった時代だから、それも当然か。
跡部:それを左右に並べているという(笑)
にし:遊び心があって面白そうじゃないですか! そういうのは好きです。
跡部:あと「加藤嘉明」などは、若かりし頃とその後とを左右で展示していますので、描かれ方の違いを楽しんでいただける人物もいます。
にし:そういった楽しみ方できるように、配置や解説も工夫されているのかぁ。
跡部:図録では左右見開きに配置していまして、解説を読んでいただければ関係性が分かるものもありますよ。
にし:あ! 見慣れない絵ですが豊臣秀頼もあるんですね。
跡部:屏風絵に小さく描かれたものですね。
   秀頼はひ弱なイメージがある人も多いようですが、実は巨漢だったという文献があるんですよ。
にし:確かにこれを見るとちょっとデカいですね(笑)
跡部:かなりの巨漢だったようなので、それを証明するような雰囲気はありますね。
にし:こんな小さいものまで選んだのは跡部先生なんですか?
跡部:人物の選定は全て私が担当しました。
   解説については学芸員で手分けして作りました。
にし:かなり多そうですが全部で何人なんですか?
跡部:図録、展示とも125人です。秀吉のように、複数の画像をとりあげた人もいます。
にし:125人分の顔をクローズアップして選定していく作業も大変そうですが、エピソードも入った解説の作成も随分と時間が掛かったんじゃないですか。
跡部:それぞれの人物のエピソードを交えて紹介していますが、書くのは面白かったですよ。
   ただ、エピソードがない人もあって、プロフィールを作るのに苦労した人もいましたね。
にし:125人となると有名で文献が残っている人ばかりじゃないですもんね。
跡部:「なんでこんな人、選んじゃったんだろう」って、書きながら思った人もいます(笑)
にし:選んだのは跡部先生本人ですもんね(笑)

 

■必見!? 跡部先生の個人的お薦め

にし:跡部先生の個人的にお薦めの人物を教えてください。
跡部:「長篠合戦図屏風」に描かれている「佐久間信盛(さくまのぶもり)」ですね。
にし:知らない人物ですが、どんな魅力がある武将なんですか。
跡部:30年間に信長に仕えた人ですが、ある言葉を言ったことがきっけかで追放されてしまった人です。
にし:この人ですね。

佐久間信盛のパネルと解説

にし:解説を読ませていただきましたが、人間のエゴというのは今も昔も変わらないというのが分かるエピソードです(笑)
跡部:そのエピソードが面白かったのでご紹介してみました。
   「長篠合戦図屏風」の横にパネルと解説が出ているので是非見逃さずに見て欲しいです(笑)
にし:ほかに気になる人物はいますか。
跡部:「大坂夏の陣図屏風」の特定できる21武将の中で唯一、大坂城の方を見ている後ろ向きの姿で描かれている人物がいるんですよ。
にし:何か意味ありげですね。
跡部:淀殿と恋仲の噂のあった「大野治長(おおのはるなが)」です。
にし:淀殿と噂? へぇ、そんな人物がいたんですね。
跡部:大坂の陣開戦のきっかけを作った人物でもあり、合戦中に秀頼を迎えるために大坂城に引き返したことで戦況が悪化する原因を作ったという人物でもあります。
にし:影響が凄すぎるなぁ。
跡部:最後は自分を含む家臣の命と引き換えに淀殿と秀頼の助命を家康に願い出るんですが、当時の将軍であった徳川秀忠に拒絶されてしまって、淀殿らと一緒に自害したんですよ。
にし:なんかドラマチックな人ですね。
跡部:治長が命乞いをしたことで淀殿の評判も落ちましたが、それでも愛しい人を助けることを優先した、噂通りの人物だったのかなと思うと、結構好きなんですよ。

展示担当の跡部信先生と「長篠合戦図屏風」

跡部:今回の展示の見どころは、人物の顔と人となりを見比べて楽しんでもらえる内容です。
   図録を片手にご覧ください。
にし:ありがとうございます。

 

■にっしゃんからのメッセージ
展示を観に来られた際は、図録をご購入くださいませ!
図録だけでも欲しいという方はオンラインショップでご購入いただけますよ!
テーマ展「武将たちの風貌」図録
https://osakacastleonlineshop.com/item-detail/1052954

■展示概要
1.名称:テーマ展 武将たちの風貌
2.会期:令和 4 年 3 月 19 日(土曜日)から令和 4 年 5 月 8 日(日曜日)まで
3.時間:9 時から 17 時まで
※入館は閉館の 30 分前まで
4.会場:大阪城天守閣 3・4 階展示室(大阪市中央区大阪城 1-1)
5.入館料:大人 600 円
中学生以下、大阪市在住 65 歳以上の方(要証明)、障がい者手帳等ご持参の方
は無料
※このテーマ展は大阪城天守閣の通常入館料でご覧いただけます。
6.出品点数:49 点
7.主催:大阪城天守閣
8.問合せ先:大阪城天守閣
住所:〒540-0002 大阪市中央区大阪城 1-1
電話:06-6941-3044(9 時から 17 時まで) ファックス:06-6941-2197
ホームページ:https://www.osakacastle.net/
9.その他:新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、事業が中止・変更になる可能性
や、お客様のご入館をお断りする場合があります。最新情報は大阪城天守閣ホ
ームページをご覧いただくか、上記問合せ先にお問合せください。

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